

エンジェルファーム福井に一歩、足を踏み入れた瞬間、そのスケールの大きさに圧倒された。高層マンションの各戸の生活が異なるように、「てんしの光やさい」たちの表情も、それぞれが違う。笑顔あふれる女の子がいれば、ブランコにたわむれる男の子もいる。そんな子供たちを見守るように、優しい目を向けるお母さんの姿もある。いや、どの顔にも明るさとはつらつさ、元気いっぱい“ひかり”輝いていることだけは伝わってきた。
苗床へのタネまきは流れ作業だ。棚には、ちょこっと芽生えたタネがうぶ声をあげている。5センチほどに育った苗たちは、今度は直径5センチの育苗カップへ移され、温かい光に包まれて大人への階段へと踏み出す。
その作業の一つ一つが、白衣の係員によって手際良く進むのが、赤ちゃんから幼児へ、児童から青年期へと、間違いのない歩みを続けさせる〝親〟の様な温もりが感じ取れた。
生きものの野菜たち。育つ過程では、幾つもの好条件に恵まれている。光の量、栄養、水分、空気や湿度。そんな、タネまきから収穫までの30日余りを無事すごした青年期の野菜たちも、出荷という旅立ちの日を迎える。
出荷を待つ野菜たちは、一本一本、厳しいチェックを受けねばならない。確かな成長と野菜本来の発色、重量と不揃いの調整など関門を終え、パッケージ(発送)される。一切の雑菌類を排除しているとはいえ、万が一、一筋のゴミでも交じっていれば、それだけで出荷の足取りが止まってしまう。そんな、ピンと張りつめた雰囲気が、クリーンルーム全体に漂っていた。
冷却処置が施され、パッケージを終えた野菜たちは、消費者への満足度にかなうか、期待に胸ふくらませているようだった。
角にある真っ赤なブースが目に飛び込んだ。シーシーエスが開発(植物に対する光の研究)中のLED(発光ダイオード)を用いた育成棚だ。
一色の蛍光灯と違って、少しエネルギーの違いによる特徴は出るようで、葉っぱの大きさや、野菜の発色にも差が表れるという。上野工場長の「どのような波長の光をどれだけ点灯させれば効率よく栽培できるかといった、複数パターンの実験をしているところです。いずれ、LEDだけの使用も考えられるでしょう」の言葉に、野菜たちをこよなく愛する熱意と自信のほどが見て取れた。
タネの購入、タネまき、収穫から袋詰めまで全ての工程を工場内で行うことで、確かに人に害を与えるような害虫などが混入する心配はなさそうだ。野菜が育つのに必要な栄養素には、チッ素、リン、カリの、いわゆる三大栄養素がある。チッ素が最も大切で葉の成長をうながす。リンは実や花を、カリは根の生育にかかわっている。また、カルシウムはマグネシウムなどとともに肥料には欠かせない成分だ。光合成をうながすべく外部からの刺激を野菜に伝え、細胞組織の強化や、根の生育を促進したりする。野菜がより吸収しやすい水溶性カルシウムであれば、有効な成分を必要な分取り込むことができるのだろう。
野菜工場という閉鎖的空間で、土を利用せずに養液栽培を行い、光量や光照射時間、温度などの環境も完全にコントロールされている。そのため、冷夏、暖冬、台風といった自然災害などの影響を受けることがない。また、病原菌や害虫の被害もないことで、安定した量、形や味、栄養素などの品質も一定のレベルを保てるのだろう。
また、病原菌や害虫の侵入がないため、農薬をまく必要性が全くなく、完全無農薬であることも確認。加えて、露地もの野菜と異なって土等の付着が無く、菌数が極めて少ないため、洗浄せずに口にすることができるのも工場野菜の特徴と言っていい。
少しの誤差はあるとはいえ、養液栽培することにより、温度や湿度、培養液の成分や二酸化炭素濃度をコントロールすることで、連作や短期間で出荷可能な状態まで育てられる。上野工場長はその点についても、「培養液や人工の光を用いた促成栽培と受け取られがちですが、環境はできる限り自然界に近いように工夫しています」の野菜に寄せる愛情と、「やってできないことはない」のモットーに、近い将来、さらに多くの品種改良への誓いが汲みとれた。
1966年から36年間ジャーナリストとして第一線に。
大半を警察担当として多くの事件、事故を取材。
その他得意分野は、医療や福祉、スポーツ、国際問題など。
この間、日本新聞協会賞や坂田記念ジャーナリズム賞を受賞。
現在は、医療ジャーナリストとして活躍中。